與子田さんが出張の途中に偶然見つけてくださった「石川暢子の世界」展に行って参りました!
九州で初めて開催されるとあり長期間の開催かと思いきや、なんと6日間のみの開催。
慌てて姪と息子を連れて福岡アジア美術館へ足を運びました。
展示室内は、ブルーを基調にオリエント急行をイメージした演出で、とても上品。
期待に胸が膨らみます。
照明をおとした落ち着く空間を進んでいくと、いきなり想像を超えた作品に目が釘づけになりました。
エメラルドの原石を湖にみたて、ほとりにそびえ立つヨーロッパのお城を緻密に再現した作品は、まるで立体感のある3D絵画!
ヨーロッパの宝飾技法はもちろん日本古来の工芸技術や彫金の技法などを駆使した小さな芸術品の細工に姪と顔をくっつけて見入ってしまいました。
紳士的な案内役がスマートにサポートしてくださって、作品にまつわるエピソードなどを聞かせてくれます。
その紳士が教えてくださった「赤銅(しゃくどう)」。
お城の屋根の部分など、作品の中に必ずといってよいほど使われている黒いツヤのある素材は、日本刀の鍔(ツバ)などに昔から使われていたもの。
「赤銅」とは、銅に金および少量の銀を加えた日本独特の合金のことで、石川暢子さんは、この「赤銅」を好んでお使いだったようです。日本特有の素材を作品の一部に施し、これだけ素晴らしい作品を生み出す石川暢子さんに日本人としての誇りを感じ、ぐっと親近感をおぼえました。
展示の一部には、時代の変遷を表現するかのような作品もありました。
石や黄金を施した日本の古代文化を思わせるデザインでありながら、これまでとは全く違ったモダンな作品が多く展示されています。
また、それはそれはゴージャスな葡萄モチーフや今年の新作(ミモザ)のネックレスが存在感を放っていました。
残念ながら5年前に石川暢子さんは他界なさいましたが、デザイン画(原画)も展示されていました。職人に伝わりやすいようにとデザイン正面図・横面図・拡大図とに描き分けてありました。
そして一番奥の一角には、帳(とばり)を垂らした和の空間が広がっています。
これまでとはガラッと雰囲気が変わります。
立体感やリアルさはそのままに、桜や鷺などをモチーフとした作品たちに見事に日本の風景が表現されています。
源氏物語をテーマとした「黒髪 明石の上」は、亀甲文様の十二単をまとった後ろ姿の長い黒髪の艶めきがリアルに表現され、とても印象的。
これらの表情豊かな作品は、技術を研究し続けた証なのでしょう。
妥協を感じさせない仕上がりは、その追究に応え続けてきた職人がいたからこその完成度なのだと感じます。
その職人のおひとりが、有り難いことに技術を惜しげもなく実演なさっていました。
現在、千葉県市川市に工房があり、14名の職人のうち12人が国家資格「一級貴金属装身具製作技能士」をお持ちなのだとか。
実演では銀板に5ミリほどの桜の花びらを鏨(たがね)で描き、花びらの先に模様を施していく行程を披露してくださいました。
細やかな彫金ひとつにも数種類の鏨を使い、表面に独特の風合いが描き出されます。
職人さんあるあるを伺うと、実は作品の彫金工程よりも道具の鏨を作る工程の方が大変なのだそう。
デザインに忠実な表情を作り出すための鏨を自作しているらしいのですが、それがとても時間がかかる作業なのだそうです。
職人さんの手元には数十本の鏨がありましたが、一見同じものに見える鏨の小さな先端は細かく違っていました。
時間をかけて手塩にかけて作る鏨だからこそ、すぐに見分けもつくのでしょう。
誰をも魅了する作品の完成度の高さは、職人さんの見えない苦労があってこそなのだということを知る貴重な機会でした。
今回の展示会は、まるでアンティークに囲まれた豪華列車で、夢の世界を通り抜けているような贅沢な時間でした。
案内役の紳士が最後に教えてくれたのは、剣のモチーフで作られた小さなブローチが、実際に鞘(サヤ)から剣を抜くことも出来るほど精巧に作られているとか。
施されている宝石や絵画のようなデザインの素晴らしさは勿論ですが、そのデザインを忠実にかつ絶妙な質感に仕上げる職人技術の凄さに感銘を受けました。
姪は、最後に新作ミモザの前で「やっぱりキレイだな~♪」と呟いておりました。
まだご覧になられていない皆さまには、機会がありましたら、ぜひ一度はご覧いただきたい逸品でございます。
ご参考:NOBUKO ISHIKAWA公式サイト